猫がぷいと出て行ったあとの
ソファーのくぼみに触れる
温かさが残っているかと思ったのだが
小さな動物の体温は
すぐに消えていた
出て行った猫を探すことはできない
勝手口に立ち
大声で二度呼んだが
彼の耳には
届かないらしい
雑草や潅木が生い茂り
荒野となった庭を
堂々と
まるでサバンナのライオンのように
猫は歩いていく
そしてどこかに
姿をくらましてしまう
ある朝
猫は帰ってこなかった
前夜足しておいた餌も水も
口がつけられていなかった
ここが彼の家というわけでもなく
私に属すというわけでもない
ある日いつものように
ソファーから立ち上がり
のそのそと眠たげに歩いて戸口を出れば
私のところに
戻ってくる義務は無いのだ
長い草の間を歩く猫を想像する
身動きせず体を固くして
獲物を狙い
スプリングのようにすばやく襲い掛かっては
満足げにそれを食す姿を思い描く
柔らかい草に寝そべり
前足をなめては
丁寧に顔を拭く
そして家のほうを一度だけ振り返ると
隣の草原を目指して
歩き出す
そしてその先の荒野を目指して
そしてその先の荒野を目指して
どこまでも
生い茂る藪の間を抜けていったのだろう
心にさっと風が吹き抜ける
アフリカの温かい風が
遠くまで
遠くまで
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