Monday, 31 January 2011

ライオン

猫がぷいと出て行ったあとの
ソファーのくぼみに触れる
温かさが残っているかと思ったのだが
小さな動物の体温は
すぐに消えていた

出て行った猫を探すことはできない
勝手口に立ち
大声で二度呼んだが
彼の耳には
届かないらしい

雑草や潅木が生い茂り
荒野となった庭を
堂々と
まるでサバンナのライオンのように
猫は歩いていく
そしてどこかに
姿をくらましてしまう

ある朝
猫は帰ってこなかった
前夜足しておいた餌も水も
口がつけられていなかった

ここが彼の家というわけでもなく
私に属すというわけでもない
ある日いつものように
ソファーから立ち上がり
のそのそと眠たげに歩いて戸口を出れば
私のところに
戻ってくる義務は無いのだ

長い草の間を歩く猫を想像する
身動きせず体を固くして
獲物を狙い
スプリングのようにすばやく襲い掛かっては
満足げにそれを食す姿を思い描く
柔らかい草に寝そべり
前足をなめては
丁寧に顔を拭く

そして家のほうを一度だけ振り返ると
隣の草原を目指して
歩き出す
そしてその先の荒野を目指して
そしてその先の荒野を目指して
どこまでも
生い茂る藪の間を抜けていったのだろう

心にさっと風が吹き抜ける
アフリカの温かい風が
遠くまで
遠くまで
吹き抜けていく



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