Monday 18 January 2010

ボブ・ディラン

微笑まないユダヤ人
神をチャネルする
それほどの才能のあることの
それほどの前が見れることの
責任をあなたは負わない

逃げよ
つかまらず
ただ自由であることを証明するだけのために

自分の声で自分の歌を歌い続けるために
自分の歌を自分のものとし続けるために

愛を歌わず
反戦を掲げず
時代を代弁せず

歌わないために
笑わないために
語らないために

走り続けよ
評論家もファンも
誰も追いつけないスピードで

変わり続けよ
批判され続けよ
失望させ続けよ
裏切り続けよ

あなたが潔く捨てていくものを
振り返らずに
踏みにじっていくものを
拾い上げることで
私たちは魂の枷を少しだけゆるめる

Friday 15 January 2010

墓地

あの子のお墓は
横須賀の見晴らしの良い場所にあるらしい
整備された明るい墓地は
外人墓地のように
広々としているらしい

芝生は手入れが行き届き
水汲み場はすぐ隣
ずらりと並ぶお墓の列の
その一番端にあり
廻りも気がねしなくていいらしい

あの子を思う人たちが
あの子のために
墓石が汚れたらいつでも掃除が出来るように
良い場所を選んだんだね
暗く寂しくならないように
海の見渡せる場所で
風の歌を聴きながら
いつまでも緑に囲まれていられるように

それでもそんなところに
あの子はいなければいいと思う
小さく区分された石の下などではなく
海では魚となり
空ではツバメとなり
木々の間を渡っていく風となり
街と一緒に
人ごみと一緒に
あの子は自由に飛び跳ねていればいいと思う

その丘の上の墓地に行こうか
花も持たず線香も持たず
「あんたの人生、こんなちっぽけな石の下に納まってるよ」
と冗談めかして話しかけて
あの子が面白がって笑っているのを聞くために

Monday 4 January 2010

トイレの床を拭く

何かをすべきかもしれないが
足が動かない
力が萎えているのだろう

夜中に
トイレの床にしゃがんで
ひざをついて掃除する
ごしごしと
何度も何度も
泡を立てて雑巾で床を拭く

何を望まないのかを
はっきり知っているのなら
何を望むかを
知っているのか

悲しくはないと思っていたが
このくらいはへっちゃらだと
涼しい顔でいたのだが

優しい言葉を使う人を思う
遠い場所の
遠い時間のその人は
本当に存在するのだろうかと
トイレの床に座り込んで
そこまでの距離に
心をくじかれる

立ち上がり雑巾を捨て
何度も何度も
石鹸で手を洗う
何度も何度も
繰り返す

猫を外に出し
戸締りをして
風呂場と台所の電気を消す

立ち上がれるだけの力があれば
寝床にもぐる気持ちがあれば
また明日もやっていけることを
ぽつりと
思い出す