Wednesday 9 February 2011

雉も鳴かずば撃たれまい


ぽん
ぽん
ぽん

雲の立ち込める冬の午後
しんなりと冷えた空気に響く

ぽん
ぽん

乾かない洗濯物を取り込みながら
耳にするその音には
金属の響きはない
拍子抜けするほどに日常的な
動物的なその音が
銃の音だと気づいたのは
しばらくしてからだった

ビーターと呼ばれる子供や若者が
藪の中で草を打つと
驚いた雉は
ここっ
ここっと
哀しげな声を上げる

それを合図に
ハンター達が銃を撃つ

たった一握りの米と小豆を盗んだために
病の娘に食べさせようと
蔵に忍び込んだために
人身御供になった男がいた

やっと病床から上がり
まりをつきながら
あずきまんまはおいしかったと
口ずさんだために
父親を失った幼い娘は

雉も鳴かずば撃たれまい

そうつぶやくと
二度と口を開かなかった

遥かな異国の地で
私は湿った洗濯物を手に
雉の飛び立つ音を聞く

ぽん
ぽん
ぽん
ぽん

迫力も殺意も生半可に
物憂げに響く銃声は
田舎の冬の景色の中に
ふやけてすいこまれる

ハンター達は雉をランドローバーに放り込み
暖炉の火ととウイスキーを求めて
パブに向かって歩いていく


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Tuesday 8 February 2011

脱水機の甲高い金属音
食器洗い機の中でぶつかるワイングラス
コンピューターのファン
熱帯魚の水槽のフィルター
冷蔵庫のひくくうなる音

ソファーに寝そべる猫に耳を押しつけると
目を開けてちらりとこちらを見る
ごろごろという
愛しい生命の音

こうして誰もがねじを巻く
エンジンを規則正しく
うならせる

心臓のどくどくという音さえ聞こえない
音のない世界を想像する
それに憧れ
それを恐れる

リズムのない世界
時の流れない世界

耳を澄ませる
静寂の中に手足を広げ
空気をかき回す

そこでは空気すら濃度を失う
四肢が空気と溶け合い
空気は景色と混じり合う
よどんだ動きのない静けさ

その重いぬかるみを
体になじませる

そこで聞く音が
耳に響く
いつまでも緩やかに
耳からからだにひろがる



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Friday 4 February 2011

古い本

本棚から古い本を手に取る
ぱらぱらとページをめくり表紙を返すと
昔の友人からのメッセージがあった

Merry  Christmas
With a little help of this book

15年も前のクリスマスを
一緒に迎えた時のものだった

その時間のその場所に戻る
その時着ていたセーターの色まで
思い出せるのは
どこかに写真が
残っているからか

しんしんと冬の深い
デボンの大きなファームハウスで
大勢で過ごしたクリスマスだった
公衆電話まで
3キロも歩いたことや
一人で散歩に出かけ
道に迷ったこと
その道の静かさが
耳によみがえる

コンピューターのスイッチを入れ
名前を入れて検索すると
あっさりと彼女は見つかった
プロフィールを読み
簡単なメッセージを書いて
送信のボタンをクリックすれば
過去と今が簡単につながるだろう

コンピューターの前で
私はしばらく
川沿いの林を一人で歩く

暖炉の前の大きなソファーに座り
誰かの弾くギターの音を
いつまでもうっとりと聞く

ソファーにかけられた
毛布の肌触り
コーヒーテーブルに散らかった
ジャグリングボール
誰かが焚いたかすかに残る
サンダルウッドのお香の匂い




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Thursday 3 February 2011

蜘蛛の巣


車のミラーの蜘蛛の巣は
夜露に濡れ
早朝の光にきらめく

正確な編み手が
丁寧につむいだ
肉眼では見えないほどの細い糸

蜘蛛は巣を作るために
莫大なエネルギーをつかう
そして巣が壊れると
無駄にしないように
それを食べるという

蜘蛛の巣にかかった蝶を
放ってやったことがある
放したとて
羽が傷ついた蝶は
すぐに死んでしまうことは
知っていたものの
そのまま蜘蛛に食べられるのを
見ることができなかった

あのときの蜘蛛も
こうして
全力で緻密に
光をつむいだことだろう

さらに強まる光の中で
夜露は消え
巣はますます透明になる

かかることの無いエンジンの間近で
繊細に輝く光のタペストリーが
ひっそりと
獲物を誘い込む



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Wednesday 2 February 2011

スノードロップ


年が明けて間もない頃
スノードロップの花は咲く
いよいよこれから
本格的になろうかという寒さの中
もみの大木の下で
勇敢に
小さな花を咲かせる

枯葉や棒切れやツタの間に
今年も寒い朝
白いものを目にとめる
もしかしてと心をときめかし目を凝らすと
去年と同じ場所に
いくつかの白い花があった

木陰に咲く小さな花は
春が本格的にやってきて
木々の葉が生い茂る前に
冬至が過ぎなおまだ弱々しい冬の光を
貪欲に
独占しようとしているのだろう
季節を先取りしたいのは
人間だけではないのだ

白い花が次々と顔を見せ
この長いドライブは
あと2週間もすれば
スノードロップに覆われるだろう

裏庭のブラックベリーの茂みに
小鳥が数羽戯れていた
しんしんと冷え込む空気の中で
季節のねじが
確実に巻き込まれる


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