地上での暮らしに疲れると
水の中にもぐる
ゆっくりとしたペースで
プールを往復する
水底の黒線は
私の行く手を迷うことなく指し示す
水の中の世界では
光は千々に踊り
地上の喧騒も
そこまでは届かない
時間が流れ方を変える
次第に
体温は水と同化する
羊水の中では
どこからが体でどこからが水なのか
わからなくなる
空を飛ぶような
なめらかな努力で
泳ぎ続ける
2つの世界のちょうど交わるあたりで
わたしは水面に上がるのをためらう
もう少し息を止めて
この世界にとどまりたい
あともう少し
あともう少し
息を止めて
もうちょっと
突然
はじかれたように水面に飛び出す
大きく息をついで
心臓の激しさに驚く
体をぶるっと震わせて
プールの底を探して足がもがく
生きているのだ
水の世界に2分ととどまれぬほど
わたしは生きることを欲しているのだ
命はそんなにも激しい力で
わたしを地上界に放り出すのだ
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