Wednesday, 3 November 2010

春を祈る

朝カーテンの向こうから
薄明かりが射していることに気づく
窓を開けると
空気が少しいいにおいがした

まだ弱々しい欧州の光に誘われて
長靴を履き外にでる
りんごのつぼみは膨らんでいないものの
足元に
水仙の芽を見つける

そこにはまだ何一つ色が無い
伸びた芝は泥にまみれ
長靴の下で
ぐちゃぐちゃと醜い音を立てる
畑は雑草に覆われ
収穫されなかったにんじんが
泥の中で腐り始めている

そのとき草の中に
小さく赤いものを見つける
腰をかがめ覗き込むと
てんとう虫だった

思わず手を伸ばしかけ
また引っ込める
この寒さの中で本当に生きているのだろうかと
急に怖くなる

「飛びますように」
そう短くつぶやく
まるでその薄い翼が
春を連れてくることができるかのように
ひっそりと祈る
泥の中に膝をつき
同じ言葉を何度も真摯に繰り返す

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