Thursday, 14 October 2010

冬の記憶

暖炉の薪の
ぱちぱち立てる火の粉を見る
そして手をかざして
においをかぐ
冬の匂いだ

記憶の後ろのほうから
何かをひっぱり出せそうな匂い
森の中を歩く
深々した枯葉の中に
皮のブーツを沈ませて
滑らないようにリズムよく
呼吸を整えて歩く
頭上の木々は大半の葉を落としたものの
暑く低い雲の広がった空からの
太陽の光は
もう地面には届かない

瓦葺の屋根が自慢の
築四百年のパブ
控えめなクリスマスの飾りを見ながら
古いテーブルに座り
酒をすする
記憶の中のワインは
なぜかいつも温かく甘い
かすかに漂うもみの木の匂いが
デジャブのように
今年と去年をつなぐ

コートを着て
マフラーをしかり巻いて
ドアノブに手を掛け
覚悟を決めるように寒空の下に踏み出す
空気の澄み切った冷たさが
肺にしみこむ

冬の匂いがつながる
それはまたもっと古いものにつながっている
たどる先にあるものは他愛ない情景だと
わかってはいるものの
それを頭の隅で
いつまでもたどり続ける

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