氷の上で滑るのを気にしながら
この道を走った
道路を覆い被る枯れ木の枝を見て
遠い夏のことを考えた
今
初夏の柔らかい光の中
またその道を走る
陽は低く
光と影の強いコントラストのせいで
私は何も見えないまま
車を走らせる
ああ
サングラスをはずす
リューマチで曲がった指を伸ばす巨人のような
あの枯れた大木たちは
今では緑に覆われ
私をつかの間光から守る
葉のひさしは厚く
木漏れ日は目を射ることなく
ただ何百もの
微妙に揺れる緑の光となる
この木のトンネルを
抜けてしまいたくはないのだが
徐行もできないほどに
私の心は研ぎ澄まされている
光と影の混じるこのトンネルを
このままスピードを出して
走っていこう
この先で待ち構える強い夏の光を
受け止めることはできるだろう
野に咲く花を摘んで
花瓶に飾る
見飽きた食卓の
そこだけが光を帯びる
野に咲く花ならば
そのまま咲かせておけばいいものを
季節の盛りの野の花は
誇らしく毅然と
完璧な姿を見せる
顔を太陽に向け
叫びも要求もせず
ただ咲き誇る
何十と咲き乱れるそのうちの
開花しきらない数本を
丁寧に摘む
選ばれた花は自慢げに
暖かい部屋で大きく花開き
芳香を放つ
けれども翌日には野の花は
少しだけ生気を失っている
かすかにわからないくらいに
もう腐敗は始まっている
水を替えても薬を入れても
時間はさらにスピードを上げる
家人が消えた夜の台所で
暗い部屋の中に浮かぶ花を見ながら
遠くの野原を思う
手折らなかった花は
今朝も光に顔を向け
咲いているのだろう
時間はゆっくりと進み
今日は一枚明日は二枚と
完璧なままに花弁を失い
種を膨らませていくのだろう
そして地に落ちた種は
あるものは腐り
あるものは食べられ
あるものは芽を出すのだろう
それでも食卓の花は
首を伸ばし咲き続ける
あと一日
あと一日と
そして食卓に光を集め続ける