Thursday, 11 March 2010

木のトンネル

氷の上で滑るのを気にしながら
この道を走った
道路を覆い被る枯れ木の枝を見て
遠い夏のことを考えた


初夏の柔らかい光の中
またその道を走る
陽は低く
光と影の強いコントラストのせいで
私は何も見えないまま
車を走らせる

ああ
サングラスをはずす
リューマチで曲がった指を伸ばす巨人のような
あの枯れた大木たちは
今では緑に覆われ
私をつかの間光から守る

葉のひさしは厚く
木漏れ日は目を射ることなく
ただ何百もの
微妙に揺れる緑の光となる

この木のトンネルを
抜けてしまいたくはないのだが
徐行もできないほどに
私の心は研ぎ澄まされている

光と影の混じるこのトンネルを
このままスピードを出して
走っていこう
この先で待ち構える強い夏の光を
受け止めることはできるだろう

野の花


野に咲く花を摘んで
花瓶に飾る
見飽きた食卓の
そこだけが光を帯びる

野に咲く花ならば
そのまま咲かせておけばいいものを

季節の盛りの野の花は
誇らしく毅然と
完璧な姿を見せる
顔を太陽に向け
叫びも要求もせず
ただ咲き誇る

何十と咲き乱れるそのうちの
開花しきらない数本を
丁寧に摘む

選ばれた花は自慢げに
暖かい部屋で大きく花開き
芳香を放つ

けれども翌日には野の花は
少しだけ生気を失っている
かすかにわからないくらいに
もう腐敗は始まっている
水を替えても薬を入れても
時間はさらにスピードを上げる

家人が消えた夜の台所で
暗い部屋の中に浮かぶ花を見ながら
遠くの野原を思う
手折らなかった花は
今朝も光に顔を向け
咲いているのだろう

時間はゆっくりと進み
今日は一枚明日は二枚と
完璧なままに花弁を失い
種を膨らませていくのだろう

そして地に落ちた種は
あるものは腐り
あるものは食べられ
あるものは芽を出すのだろう

それでも食卓の花は
首を伸ばし咲き続ける
あと一日
あと一日と
そして食卓に光を集め続ける