Monday, 1 February 2010

八百津橋

ことことことこと単線に揺られて
祖母の家に向かった
大阪から新幹線に乗り
名古屋駅からは何度も乗り換えて
電車の通るその一番先まで行った

大きなかばんを下げた母と
その半分の背丈の私は
言葉も交わさず駅からの夕暮れ道を歩く
切り立った崖を右手に
木曽川を左に
道端には祠があったただろうか
一番星が出ていただろうか
二人の足がひと足ごとに
川の向こうを手繰り寄せながら進む

そして八百津橋に出る
渡ると中ほどでかすかに揺れた
欄干から見下ろす川は
暗く濃く深く
魅入られたように足を止めて
速い流れを凝視した

橋の上の空気はひんやりと澄み
乗り物酔いはすっかり消え
頭がしんと川と同じくらい冷たく冴えきった

橋を渡ると町があった
下駄屋と菓子屋と旅館を過ぎ
右に曲がると祖母の家だ

母を残し小走りにそこに向かう
祖母に預けらたままの妹は
まだ起きているだろうか
もう寝巻きに着替えて
布団の中で待っているだろうか
薄暗い部屋で目をこらし私の足音に耳をすませているだろうか

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