ことことことこと単線に揺られて
祖母の家に向かった
大阪から新幹線に乗り
名古屋駅からは何度も乗り換えて
電車の通るその一番先まで行った
大きなかばんを下げた母と
その半分の背丈の私は
言葉も交わさず駅からの夕暮れ道を歩く
切り立った崖を右手に
木曽川を左に
道端には祠があったただろうか
一番星が出ていただろうか
二人の足がひと足ごとに
川の向こうを手繰り寄せながら進む
そして八百津橋に出る
渡ると中ほどでかすかに揺れた
欄干から見下ろす川は
暗く濃く深く
魅入られたように足を止めて
速い流れを凝視した
橋の上の空気はひんやりと澄み
乗り物酔いはすっかり消え
頭がしんと川と同じくらい冷たく冴えきった
橋を渡ると町があった
下駄屋と菓子屋と旅館を過ぎ
右に曲がると祖母の家だ
母を残し小走りにそこに向かう
祖母に預けらたままの妹は
まだ起きているだろうか
もう寝巻きに着替えて
布団の中で待っているだろうか
薄暗い部屋で目をこらし私の足音に耳をすませているだろうか